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五〇キログラムのものを投げるには、腕力がいります。
それをまた五〇キログラムの重さで受け止めて、またロールの間に入れる。
というわけで、二人の労働者がロールとロールの間に差しこんでは受け止め、相手に返してはまたそこに入れるということをくりかえすうちに、だいたいそれが畳一畳より小さトバーを薄板に仕上げる作業シー目の大きさになります。
つまり長さ丁五メートル、幅八〇センチぐらいの大きさです。
これで厚さが、十一分の一に減ったことになります。
そうなると、それを一人の労働者が遠く離れた床の上にホーンと放り投げる。
放り投げられたほうにまた労働者がいて、二枚重ねの畳一畳ぐらいの真っ赤な鉄板をまた長いハサミで受け止めて、そしてそれをクルリと二つ折りにする。
二つ折りにするのも、鋼板のことですから、力がいります。
そしてネズミ捕り器のような、パタンとしまるような単純なしかけの中に入れて、パタンと二枚に折ってしまうのです。
そうすると二枚が四枚になる。
今度は四枚重ねになる。
それを加熱炉に入れて熱する。
そしてまたさっきのように労働者二人がロールの間でそれを延ばして、放って受け止めて、突っこんで、延ばして受け止めて~という作業をくりかえす。
それでまた畳一枚ぐらいの大きさになる。
それをまた二つ折にすると四枚が八枚になる。
ということはつまり、一枚の鋼板の厚さがさらに四分の一になったということなのです。
その頃はそうやって鋼板をだんだん薄くしたのです。
だから自動車をつくるといっても、そういう薄鋼板をつくるのに実に大変な労力がいる。
こういう薄板製造設備をプルオーバーミルと言います。
自動車が大量生産されますと、こういった薄板の工場がどんどんできてきました。
しかもこういう薄板をつくれる人は、いまの話でもわかるように、腕力たくましい人でなければならない。
それから鉄板の形や焼けた色を見て、この形ならばロールとロールの隙間はこのくらいにしたほうがいいとか、ロールの下にはまたバーナーがあってロールを熱しているのですが、この色ならば、そのバーナーの燃え方はこのくらいとか、とっさに判断しなければならない。
そういう重労働に耐え、しかも長い経験と鋭いカンが必要ですから、労働者が一人前になるのに二〇年、三〇年もかかります。
そういうぐあいですから、自動車の大量生産がますます進むと熟練工の養成が間にあわなくなる。
それでこれを自動化しようということになりました。
巨大なロールがオートメーションで薄板を製造今日の薄板の製造工場では、もはやシートバーという小さな薄板の材料はありません。
そのかわり、スラブといって、厚さが一〇センチ、幅が一メートル余り、長さ一〇メートルぐらいの大きな鉄の塊が加熱炉に入っています。
そんなものはハサミではとても持ち上げることができません。
第一、重さが二〇トンもあります。
それがローラーコンベアの上に乗っているのですが、コンベアが働くと静しずと加熱炉に入っていき、真っ赤になって静しずと自動的に炉から出てきます。
そのスラブという材料の前に実に巨大なロールが立ちはだかっていて、そのロールの中にヒョッとくわえこまれたかと思うと、轟音を発してすごい勢いで引っ張りこまれる。
真っ赤に焼けた大きなスラブがロールとロールの間に引きこまれる。
すると次にすぐまたロールが控えていて、またくわえこんで引っ張る。
またロールがある。
だいたい四組か五組のロールがあって、次つぎにすごい勢いでくわえこんでは引っ張り、くわえこんでは引っ張っていく。
すると見る見るうちにスラブが、幅はあまり変わりませんけれども、長さと厚さがどんどん変わっていく。
その四~五組のロールをくぐると、ちょっと間を置いてまた四~五組のロールがある。
そこで最終的に薄く仕上げていくのです。
そうすると長さが1000メートルぐらいになります。
したがって厚さが一〇〇分の一以下になることになります。
こんな長いものをそこらに置いておくわけにはいきませんから、トイレットペーパーのようにコイルとして巻き取ってしまう。
だから今日の薄板は以前と違って、畳一枚より小さ目のものが重なって置かれているのではなくて、コイルとして巻き取られて置かれています。
このようなロールの集団は大変大きな機械で、まったくオートメーションでできている。
これをストリップミルと言います。
ところで、製鉄所では、いったん延ばしたコイルをもう一度、今度は加熱しないで、別のストリップミルにかけるのです。
なぜそういうことをするかというと、厚さをさらに薄くすることもありますが、それ以上に金属を延ばすと、いっそう粘り強さを増すといいますか、強いくせに柔軟性があるといいますか、その性質が変わるのです。
だからもう一度それを、今度は熱しないで常温のままで、先ほどのストリップと似たような形でロールを通してまた巻き取る。
前者のストリップミルをホットストリップミルと言います。
つまり熱くして延ばすからつて薄板がつくられる巨大なロールを次つぎと通ホ。
トストリップ。
後者は冷たいままで延ばしますから、コールドストリップミルと言います。
日本語で言えば冷延。
こうしてできる鋼板のことを冷延鋼板と言います。
冷延鋼板になると、表面が非常に平らにできています。
ですから、この上に塗料を塗りますと、鏡のごとく光る。
現在の自動車はワックスなどをかけておくと外の景色がボンネットの上申トランクの蓋の上に映るでしょう。
あんなに光り輝いているということは、塗料の下の薄板がどれほど表面に凹凸がなくつくられているか、ということを意味しています。
以前の古い形の口~ルでは、とてもああいう真っ平らなつやは出てこない。
こういうふうにして鉄鋼工場の内部のようすが一変してしまいました。
板ガラスの製造法も大きく変わったガラスでもそうです。
自動車の大量生産が始まって、それから今日の板ガラスの大量生産が始まった。
つまり自動車の大量生産をすると板ガラスの大量生産をしないわけにいかない。
そこでガラス製造工場のようすが一変します。
以前だと、板ガラスは一枚一枚つくった。
先ほど言ったように、平らなものは曲がったものよりつくるのがむずかしいのです。
ガラスビンをつくるほうがガラス板をつくるよりはいかにやさしい。
第一ガラスビンというのは古代エジプト時代からあるのですが、板ガラスをつくるということは大変な仕事で、ようやく一九世紀に、ある程度できるようになった。
それでも、まだ一枚一枚つくっていました。
いったん大きなガラスビンのようなものをつくり、その上と下の部分を切り捨て円筒状のガラスにします。
その円筒を縦に割いて熱して板に延ばしていくのです。
どうやらガラス板になったら、そのあとは労働者が手でみがく。
だからガラス板は非常に高価になるし、どう頑張っても真っ平らにはしにくいから、ガラスごしに見ると、向こうの景色が歪んで見えます。
ガラスビンからガラス板をつくこれは自動車では非常に困るのです。
自動車で景色が歪んで見えたら衝突の恐れがある。
家のガラス戸なら歪んで見えたところでいいけれども、自動車の場合は走っているのですから、相手が歪んで見えては困ります。
そのうえに非常に安く、かつ大量にできてくれなければ困る。

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